2014年の個人的イチオシアルバムベスト5!

今年はポスト・ダブステップやらポスト・チルウェイブ、アンビエントR&Bなんて呼ばれていたよく解らないシーンが、トラップやジュークなんかも巻き込んで、さらによく解らない事になってきた年だったと思います(笑)個人的には歌を中心に据えた作品をインディR&B、インストが中心の作品をフューチャーベースと勝手に区別してますが、どちらもトラックの作りはよく似ていて、ベースミュージックの新しい潮流として一緒くたに聴いてます。この混沌とした状況はオンライン・アンダーグラウンドの動きが表層化してきたために、これまでメディア主導だったジャンル分け(言うなればレッテル貼り)が、いよいよ機能しなくなってきた事の表れではないかと考えますが、いずれにせよこの新しい場の出現は次世代の音楽のクリエイションに大いに貢献していると言えるでしょう。話を元に戻して、それでは筆者が2014年に購入したCDアルバム35枚の中から、特にお薦めの5枚をご紹介させていただきます。

 

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FKA twigs / LP1

今年の台風の目と言ったらこの人、FKA twigs!昨年リリースのデビューEPは先ごろアルバム『Xen』をリリースした気鋭のトラックメイカーArcaをプロデュースに迎え、海外のメディアが大絶賛の大盛り上がりだったよう。今作ではArcaの参加は2曲と控えめに、よりキャッチーで聴きやすい印象になっていますが、ポスト・ビョークと称されるその抽象的で先鋭的なサウンドスケープは、先述した2014年のシーンを象徴するかのようでした。

LP1

LP1

 

 

A/T/O/S / A/T/O/S

UKのダブステップレーベルDEEP MEDiから突如届けられた、歌ものダブステップアルバム。フロア志向なDEEP MEDiにしては珍しく、抽象的で儚いサウンドスケープはホームリスニングにもピッタリです。叙情的に歌いあげられる美しいメロディとスリリングなビートの隙間から垣間見える、ブリティッシュ・ダブの漆黒の闇に獲りこまれてしまいそう。

A/T/O/S [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRDM009)

A/T/O/S [帯解説 / 国内仕様輸入盤CD] (BRDM009)

 

 

Submotion Orchestra / Alium

クラブジャズ×ダブステップというコンセプトを掲げ、ジャイルス・ピーターソンをはじめとした有名DJのお墨付きを得て、華々しくデビューしたSubmotion Orchestraの3枚目!今やダブステップのビートにソウルフルな歌声を乗せるアプローチは珍しいものではなくなってしまったが、その経験値に裏打ちされた安定のクオリティは最早、大御所の貫録。今作は生音志向な1stと、エレクトロ寄りな2ndのちょうど中間といった趣で、その辺りの匙加減も絶妙です。

Alium [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC448)

Alium [帯解説・ボーナストラック1曲収録 / 国内盤] (BRC448)

  • アーティスト: SUBMOTION ORCHESTRA,サブモーション・オーケストラ
  • 出版社/メーカー: Beat Records / Counter Records
  • 発売日: 2014/11/26
  • メディア: CD
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Krewella / The Future Sound Of EDM

Ministory of SoundからリリースのKrewellaによるミックスCD。今年のEDMはDeadmau5のベストアルバムや、アルバムが待たれていたSkrillexやKnife Partyといった代表的なアーティストのリリースもあって大いに盛り上がったのではないでしょうか。ここ日本でも世界的なEDMフェスであるUltra Japanが開催され、EDMというワードはポピュラーなものになりました。このミックスCDは現在のEDMシーンの雰囲気を手早く知ることのできる格好の1枚。

Future Sound of Edm

Future Sound of Edm

 

 

V.A. / Platinum Breakz 4

ドラムンベースにとっての今年は、現シーンを代表するレーベルが10年周年、15年周年を迎えた節目の年だったと思います。それだけに過去の名曲をリマスタリングした記念コンピレーションのリリースが多かった印象ですが、そんな中にあって20年の歴史を誇る最古参レーベルMetalheadzのリリース群には耳を惹かれました。本作はLenzmanやOm Unit、Ulterior Motiveといったアーティストアルバムとともに届けられた、久しぶりのレーベルコンピレーション。大御所から新進気鋭のアーティストまで取り揃えた幅広いラインナップは、この先もシーンの牽引役として先陣を切ろうというレーベルの意気込みを感じさせます。

Platinum Breakz Vol 4

Platinum Breakz Vol 4

 

映画『インターステラー』を考える(ネタバレ要注意!)

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筆者の大好きな映画監督クリストファー・ノーランの最新作『インターステラー』がいよいよ公開になりました。個人的には氏のキャリアの中でも随一の傑作だと思います!宇宙航行や新たな惑星でのシーンは実に雄大で美しいです。是非、劇場でご覧になられる事を強く強くオススメします!今回のエントリーでは本編を二度観賞した上で小説も参考に、解りにくい点や疑問点をまとめていますので、ネタバレを盛大に含みます。ご鑑賞後にお読み頂ければ幸いです。

 

世界設定

激的な環境変化にともない世界には砂嵐が吹き荒れ、植物の疫病(小説では桐枯れ病)の流行による食糧難で三次、二次産業よりも一次産業が重視されるようになった未来。主人公のクーパーはNASAの元パイロット兼エンジニアでしたが職を失い、嫌々ながら農業を営なむ二児の父です。「俺たちの若いころは食糧難で、野球どころじゃなかった」という彼のセリフから、一時期に比べれば食糧難は多少は改善された模様。しかし、最後に残ったトウモロコシも疫病の前に風前の灯火です。全ての植物がこのまま死滅するような事になれば、食糧難も然ることながら地球上の酸素が足りなくなって人類は窒息してしまう!そんな中、一度は解体されながらも再建されたNASAが秘密裏に進めていたのがラザロ計画です。

 

ラザロ計画

土星の軌道上に「彼ら」が設けたワームホールを通じて、新たな銀河系の惑星に移民する計画で、これにはプランAとプランBがあります。マン博士率いる先遣隊12名がそれぞれの担当する惑星を探索し、そこが人類の移住先として有望であった場合、シグナルを発信し救助を待つ事になっており、その救助と移民受け入れのための環境構築、及びプランB遂行の任を負うのがクーパー率いる宇宙船エンデュランスの乗組員達です。劇中ではミラー、マン、エドマンズが降り立った三つの惑星が有望とされています。

 

プランA

大規模なスペースコロニーによって現人類を移住させる計画。大質量のコロニーを宇宙に打ち上げる方法として、ブランド教授は「重力のコントロール」を提唱しますが、肝心の「方程式」が完成していない。この方程式の確立に、クーパーの娘であるマーフは教授と共に心血を注ぐわけですが、この理論には大きな欠陥がありました。実はこの技術を完成させるためには、ブラックホールの中心である「特異点」の観測データが欠かせないのです。そして、光すらも逃れられない巨大な重力の底からそのデータを持ち出す事は実質不可能です。プランAは机上の空論であり実行不可能である事を、ブランド教授は今際の際にマーフに打ち明けます。

 

プランB

プランAが頓挫した場合の苦肉の策として用意されたプランBは、受精して間もない卵子を保管庫に入れて運び出し、移住先の星で人工培養するというもの。つまり、地球にいる現人類をあきらめ、種の保存を最優先とした計画です。子を持つ父であるクーパーをはじめ多くの関係者はプランAの実現を第一の目標として行動しますが、ブランド教授の告白により、このプランBこそがラザロ計画の真の目的だったことが明かされます。

 

ミラーの星についての疑問

クーパー達が辿り着いた第一の星、ここでの1時間は地球の7年に相当します。重力は地球の1.3倍。しかし、この程度の重力差でここまで時間に差が出るものでしょうか?逆説的に言えば、重力が地球の0.8倍のマンの星では、時間が相応に早く進む(クーパー達の老化が早まる)のでは?映画ではこの点に関して特に説明がなかったと思うのですが、小説では「ガルガンチュア(巨大ブラックホール)の軌道上にミラーの星があるため、その影響を受けて時間の進みが遅い。」とのロミリーの解説があり、この時間の遅れがブラックホールからの影響によるものであることが明示されています。*1母船に帰った時、23年4ヶ月8日が経過していた事からミラーの星での滞在時間は三時間強と思われます。

 

クーパーとマーフの歳はいくつなのか?

ミラーの星から帰った後、母船には地球から23年分のメッセージが届いていました。その中にあったマーフからのメッセージには「今日わたしは父さんが出ていった日と同じ歳になった」というセリフがあります。これも小説でしか語られていなかったと思うのですが、クーパーの出発時にマーフは10歳。息子のトムは15歳という設定です。ワームホールに到着するまでに2年、ミラーの星でのロスを23年とすると、10歳+2年+23年でこの時のマーフはおよそ35歳と思われます。*2

 

これを読んでおや?と思った方は鋭い!出発時のクーパーが35歳だとすると、このメッセージを受け取った時、彼の年齢はワームホールまで移動期間2年とミラーの星でのロスを23年を足して60歳です。マンの星を訪れた後、クーパー達はガルガンチュアでの重力ターンを試み、そこで更に51年もの歳月をロスします。重力ターン直後のアメリアのセリフから、この時のクーパーが120歳だとすると計算が合わなくなってしまうのです*3。120歳からガルガンチュアでのロス51年を引くと69歳になりますが、ミラーの星からマンの星までの移動にあまり時間がかかっていないのであれば(実際、映画でも小説でもそれほどのロスを感じさせる描写は無かったと思います。)クーパーは60歳のままのハズ。この9年の差は一体どこからもたらされたものなのでしょう?

 

仮説①ワームホール航行時に起こった時差であると考えると、メッセージを送ってきた時のマーフは10歳+2年+9年+23年で44歳だったのかも?つまり、クーパーの出発時の年齢も44歳だったのだ!ガルガンチュアからワームホールを抜けて土星付近に漂流していたクーパーが124歳だった事を考えると、ある程度の説得力があるようにも思えますが、ワームホールで9年も費やしていたのなら、ミラーの星に着陸する前に、一度メッセージを確認していても良さそうなもんですよね…orz

 

仮説②ミラーの星からマンの星への移動と、ガルガンチュアに引き寄せられるまでの間に実は9年かかっている。劇中ではそれほどの時間経過を感じさせませんが、ミラーの星もマンの星もガルガンチュアの近くにあり、エンデュランスでの航行中もその巨大な重力からの影響を受けて、時間の進みが遅くなっていると考える事も出来ます。個人的にはコレだと思ってますが、何か有力な仮説がありましたらお寄せ下さいm(_ _)m

 

家族を連れ出そうとするマーフにトムは何故あんなにも怒ったのか?

映画では影の薄い長男のトム君ですが、小説では彼の心情に言及する部分がチラホラあります。小説版第三部243ページのマーフの独白から引用してみます。

わたしは農場とトウモロコシから、あそこの生活のすべてから離れる事が出来て喜んだ。おじいちゃんとトムに全部任せて、逃げ出したのよ。(中略)トムはあそこに留まり、みんなの期待に応えようと、来る日も来る日も畑で働き、自分の育てたトウモロコシが死に、子どもが死ぬのを見守らなくてはならなかった。(中略)わたしも兄さんを捨てたのだ。トムが反発するのも無理はない。

このページを読むまで、僕にはトムがあんなにも怒った理由も、あのシーンの必然性も感じられなかったのですが(映画の演出としてクロスカッティングのためにあるシーンだと思ってました。)これで納得がいきました。トムというキャラクターはNASAの人達との対比として、一般の人達の苦しみの代弁者として描かれるているのではないでしょうか。

 

クーパーステーションはいつ打ち上げられたのか?(プランAはいつ実行されたのか)

クーパーが救出された際、プランAで打ち上げられたクーパーステーションは既に土星の軌道上にあり、一朝一夕では成しえないような平穏な社会を実現した上、クーパー達の家を模した記念館まで設立されていました。このことから、クーパー達がガルガンチュアでの重力ターンにより費やした51年間のどこかで、プランAは実行されていたと推測できます。(つまりクーパー達が、ガルガンチュアの軌道を回っている最中に実現されたと考えられます。)

 

重力ターンの後クーパーはガルガンチュアに呑み込まれ、そこで四次元立方体の中でマーフとの交信を果たします。映画を観ていると、この時クーパーと中年のマーフの時間軸は合致しているように錯覚してしまいそうですが、地球のマーフは既に86歳以上のはずです。クーパーから観測データを受け取ったマーフの姿は既に過去のものであり、プランAはその数年後に実行に移されたと考えられるのです。

 

折角帰ってきたのにマーフが冷たいんじゃない?

子供たちのためを想って人類を救いに旅に出て、子供たちに会うために九死に一生を得て帰ってきた究極の親バカであるクーパーを、マーフは「親が子どもを看取るのは間違ってるわ。わたしを看取ってくれるのは子どもたちだけで充分よ。さあ、行って」と突き放します。これは何故なのでしょう?某映画レビューサイトに投稿されていたご意見で、個人的に一番納得がいったのが「もう親離れした娘が、子離れできない父親を突き放したのだ。」というものです。なるほど、この映画は父と子の愛を描いたものであると同時に、成長の物語でもあるワケですね!余談になりますが、このシーンはクーパーの心情を思うとやり切れないですよね。つい先日まで自分の腕の中にいた10歳の娘が、クーパーの感覚からするとわずか数年でその生涯を全うし、今まさに天に召されようとしているのですから…。ちなみに、この時のマーフは99歳*4。こんな歳になるまで、その上コールドスリープで2年の延命をしてまで父の帰還を信じて待っていたのだと思うと、余計グッときますよね( ;∀;) イイハナシダナー

 

エドマンズの死因

ラスト付近のシーンでチラッと出てくるだけなのですが、CASEがエドマンズのものと思われるポッドを掘り出しています。小説では「冬眠中に落石にあった」と明記されていました。それでは、もしこの不運な落石がなければ、アメリアはエドマンズに会う事が出来たのでしょうか?ワームホールまでの到達に2年、ミラーの星を訪れた事で23年、ガルガンチュアでの重力ターンにより51年を費やした彼女。ここまでで地球上では約76年が経過していることになります。エドマンズは出発当時何歳だったのでしょうか?明示されてはいませんが、少なくとも18歳以上ではあったでしょう。エドマンズの星がガルガンチュアからの影響を殆ど受けていないとすれば(地球とほぼ同じ時間の流れだとすれば)この時点で94歳以上であったと思われます。

 

「飛行士の着陸ポッドには二年間の生命維持に必要な物資が用意され、冬眠で適宜引き延ばせば場合によっては何十年も(映画では10年以上、と言っていたと思います。)観測できる」というドイルのセリフから、コールドスリープで20年ほど延命したとしても少なく見積もって74歳相当です。アメリアがラストシーンで宇宙服のヘルメットを外す所からエドマンズの星には酸素があるようですが、資源があるのかも判然としない未開の地で74歳の老人がサバイバルするのは非常に厳しいと思われます。(マン博士のように時間設定無しでコールドスリープを行えば、あるいは延命できるのかもしれませんが。)

 

何故クーパーはレインジャーを盗み出してまでエドマンズの星に向かったのか

個人的に一番疑問に思っているのがココです。最後の最後、大事なシーンなのにココだけ納得がいかない!マーフが「アメリアのいる星に行きなさい」と言っているので、クーパーステーションの人達もアメリアの生存は確認していると思われます。多分、救助の船も既に出発しているに違いないのです。どうして彼はNASAに堂々と要請してレインジャーを借り受けなかったのでしょう?老齢(といっても実際はアラフォーですが)のクーパーにはもうその機会が与えられないと考えたのでしょうか?僕はこの作品をノーラン監督の代表作である『ダークナイト』や『インセプション』をも超える傑作だと思っているのですが、最後のこのシーンだけが安っぽく思えて仕方がありません。男は黙って愛する女の所へ向かうぜ!的なハリウッドのお約束なのでしょうか。非常に悔しいです!何か納得のいく仮説がありましたら、是非ともお寄せ下さいませm(_ _)m

インターステラー (竹書房文庫)

インターステラー (竹書房文庫)

*1:理論上ではブラックホール特異点に近づけば近づくほど時間の進みが遅くなり、最終的にはほとんど時間が止まったような状態になってしまうそうです。

*2:小説でも「30代半ばぐらいの」という表現で形容されているので、ほぼ間違いでしょう。

*3:ちなみに最終的にクーパーが土星付近で保護され、病院で告げられる年齢は124歳でした。

*4:クーパーが124歳なので歳の差25歳から算出。トムはもう20年も前に亡くなっているそうで、クーパーとの歳の差は20歳ですから、享年84歳だったと思われます。

『音圧アップのためのDTMミキシング入門講座!』を読みました。

 

音圧アップのためのDTMミキシング入門講座! (DVD-ROM付)

音圧アップのためのDTMミキシング入門講座! (DVD-ROM付)

 

ぱっと見のカジュアルな体裁と「音圧アップのための」という枕から受けるお手軽感とは裏腹に、その実、非常に堅実で実践的な内容でちょっと驚きました。ミキシングの本というと、エフェクターを一通り説明したうえで、各エフェクトをどんな場面でどんな風に使うか、という点に終始しがちですが、本書で扱うプラグインは基本的にEQとコンプのみ!空間系エフェクトはあくまで補助的なものであり、フェーダーとイコライジングダイナミクスコントロールこそがミックスの基本と言えます。頭では解ってはいるものの、なかなか修得が難しいこの題材にガチンコで挑む良書です。

 

個人的に、特にポイントと思われる点を四つ挙げておきます。

 

①音圧が高くボリュームが大きく聴こえる楽曲というのは、アナライザーで見た時にM字型をしています。中域が少々落ち込み、低域と高域にピークがあり(つまりはドンシャリ)、そこからアナライザー両端の超低音、超高音に向かって落ちていくイメージです。マスタリングに頼り過ぎず、アレンジやミキシングの時点からドンシャリ型を目指しましょう。

 

②不必要な中低域(~300Hz)はEQで積極的にカットしましょう。音圧が上がらずに悩んでいる方の多くが“中低域のダブつき”という症状を抱えています。あまり低音成分がないと思われがちな、鍵盤やギター、ボーカルなどもしっかり低音を含んでいます。中低域は主にキックとベースに譲りましょう。

 

③コンプはリダクション量をみながら調整しましょう。リダクション量の基準としては、①-1.5dB サラッとかけたいとき ②-3dB以内 コンプレッサー臭を出さずにかけたいとき ②-4.5dB あくまでナチュラルな範囲で加工したいとき ④-6dB以内 原音の質感を尊重したいとき(ここまでが限界) ⑤-6dB以上 コンプでイジり倒すぜ!というとき(音作りに、コンプのキャラクターを積極的に出していきたいとき)

 

④ボーカルにはオプトタイプ(光学式)のコンプで“見えない圧縮”をかけましょう。リダクション量はすべての音にコンプが掛かるように深く-8dBくらい、レシオは激ゆるの2:1以下、アタックタイムは子音が立つように1.7~3msec、リリースタイムは文節ごとにリダクションが0に戻るように調整します(50msecよりは短い)

 

などなど、内容を絞っている分、非常に解りやすくまとめられています。特にコンプの解説は、今まで自分が読んだ書籍の中ではピカイチです!付属DVDにはお手本ミックスと加工前の素材が入っており、本書を読みながらそれを実践することが出来ます。ご興味を持たれた方は是非、手に取ってみて下さい。

続・ジュークって一体何なのさ!?内に秘めたるポリリズム

以前こちらの記事で、ジュークにはBPM160とBPM80が共存し構造的にドラムンベースダブステップに通じるものがある、と書きましたが、寄せられたご意見、ご感想の中に『160と120を共存させるアフロポリリズムの導入がジュークの技術的要素。』というものがありました。これはつまり、構造的に4:3のポリリズムが内在しているという事のようです。今回はそのジュークに内在するポリリズムについて、筆者なりに見聞き調べた事をまとめてみます。

こちらのまとめにも『160-80-120(三連符)という、3つのBPMを自由に行き交う緩急自在のリズム感!』とある通り、筆者も展開として、一曲の中で三連の符割が主体になる部分がある事は認識していたのですが、ポリリズムとなると少し話は変わってきます。基本的にポリリズムというのは、その名称(「ポリ(poly)=複数の」リズム)からもわかるとおり、同時に2つ以上のリズムが存在する状態の事を言います。(BPM160とBPM80の場合は、リズムを細分化しただけとも言えるので、厳密にはポリリズムとは言いません。)文章だとちょっと分かりにくいので音源で聴いてみて下さい。

音源では右がBPM160、左がBPM120のそれぞれ4拍子のクリックが鳴っています。(分かりにくい場合は、ヘッドホンで片耳ずつ聴いてみるとイイカモ!)この状態が4:3のポリリズムです。それでは、ジュークのどこにこのポリリズムがあるのでしょうか?答えを先に言ってしまうと、特にキックとベースに顕著に表れる『♪.+♪.+♪』というリズム。これが二拍三連の訛ったものだと考える事ができ、4:3のポリリズムにおける"3"の要素になります。今度は右をBPM160の四分音符、左をBPM120の八分音符(BPM160における二拍三連)で、クリックを鳴らしてみます。左側のリズムがジュークにおけるキックとベースのリズムによく似ているでしょう?

♪.+♪.+♪≒三連符のモジュレーション(揺らぎ、訛り)はアフリカや南米の音楽ではしばしば聴く事が出来、ブラックミュージックの一つであるジュークが、このアフロポリリズムのDNAを持っている事は不思議ではありません。楽譜至上主義なクラシックからしてみると信じられないような事ですが、ある意味ではこの「揺らぎ」こそが黒人音楽の真髄であると筆者は考えています。*1少し話がそれましたが、ジュークにおいてはこの♪.+♪.+♪≒三連符が、現時点での技術的要素と言えそうです。*2最後に、前回聴いていただいたHerbie Hancock - Chameleonをネタにしたジュークで、今回のおさらいをしておきましょう。前半8小節はキック&ベースが♪.+♪.+♪のリズムを採り、つづく8小節では二拍三連に変化します。むりやり三連符にしているので、ちょっと苦しいですが。*3

以下、参考にさせて頂いた記事や音源です。

【RGW】ポリリズムの初歩

My First Impression of Juke/Footwork - Jablogy

これなんか三連符をフレキシブルに使っていて面白いですね。定型的な♪.+♪.+♪を足まわりに使わないジュークの発展型といえると思います。

*1:黒人音楽の代表的なジャンルであるブルースにおいてはリズムだけに留まらず、メジャースケールとマイナースケールの混在(これをブルーノートスケールと言います。)が見られ、これは音程のモジュレーションから発生したものだという説もあります。

*2:発祥地であるシカゴを離れ、様々なジャンルに浸透し始めた現在ではどんな発展形が出てくるか、はたまた突然変異が起こるかまったく予想がつきません。これは今後のお楽しみですね!

*3:今回は符割の関係でBPM160を軸に説明ています。

ジュークって一体何なのさ!? 16ビートから見たドラムンベース、ダブステップ、ジュークの違い

シカゴ発のJuke/Footworkと呼ばれるジャンルが台頭してきてから早数年が経ちましたが、昨今ではその特徴的なビートを、ジャンルの壁を飛び越えて様々な所で聴くようになりました。L.A.ビート・シーンの重鎮Flyng Lotusの『You're Dead!』やニュージーランドのクラブジャズ勢Electric Wire Hustleの『Love Can Prevail』等でも聴く事が出来ます。(Electric Wire Hustle - Bottom Lineは、まるでJames Blake - Limit To Your Loveのジューク版のよう!)

今後ますます勢力を拡大していきそうなこのビートですが、筆者の周りではリスナー側からもクリエイター側からも、難解で踊りにくい。作りにくい。という声をチラホラ耳にします。今回は、そんなジュークのビートについて、筆者なりの解釈を交えてお話してみようと思います。

 

まず、ジュークのビートを理解する上で外せないのが16ビート。これが全ての基本と言っても過言ではないでしょう。16ビートはリズムの最小単位を16分音符(一拍を4分割)としたビートで、ファンクやソウルといったブラックミュージックで聴くことが出来ます。百聞は一聴にしかず、という事でHerbie Hancock - Chameleonの有名すぎるベースラインを使った、下のループを聴いてみて下さい。BPM96の16ビートです。 

こういうのよく聴くでしょ?それでは早速、この16ビートとジュークのビートを比較してみましょう!といきたい所ではありますが、段階を踏んで、次に16ビートの応用と言えるドラムンベースのリズムを聴いてみます。ドラムンベースは90年代初頭に出てきたジャンルで、16ビートのベースラインに倍速のドラムが乗っかったものです。*1下のループでは、前半4小節をBPM87の16ビート、後半4小節はベースラインはそのままに、倍速(BPM174の16ビート)のドラムが乗ってきます。BPM87から見ると、スネアのゴーストノートに32分音符(一拍を8分割)のリズムが使われている事に注目して下さい。

それでは、次に00年代初頭に出てきたダブステップのビート。先ほどのドラムンベースでも32分音符が使われていると書きましたが、ダブステップはその32分音符を、より意識的に使用したビートと言えるでしょう。下のループでは前半4小節はBPM70の16ビート。後半4小節で、その特徴と言える32分音符のハイハット、スネアのゴーストノートが入ってきます。*2

そしていよいよ件のジュークです。ドラムンベースダブステップが、イギリスのロンドンで生まれたのに対し、このジューク/フットワークはアメリカ、シカゴ発祥ということで、その関係性は薄いようにも思われますが、実は構造的には非常に似通っています。先ほど聴いていただいたダブステップは、ドラムのハイハットやスネアに32分音符を使ったビートでしたが、こちらのジュークではキックもベースも32分音符のリズムを使用しており、ここまでくると最早8ビートや16ビートに並ぶ、『32ビート』と言ってしまった方が理解しやすいのではないかと個人的には思います。下のループでは前半4小節をBPM80の16ビート。後半4小節は32分音符のハイハット、スネアのゴーストノートが入り、同時にキック、ベースラインも32分音符のリズムを強調しています。

いかがでしたでしょうか?今回はファンク的な16ビートを起点に解説しているので、BPMはあくまで遅い方(BPM70~87)を軸に捉えていますが、これらのビートの面白さはその多重性にあると考えます。ドラムンベースであればBPM174の16ビート、ダブステップならBPM140の16ビートのハーフステップ*3、ジュークはBPM160の16ビートハーフステップと捉える事も可能です。その解釈はリスナー側に委ねられている部分でもありますので、速いビートで踊っても、半分のテンポでゆったり揺れてもOKです。四打ちのハウスやテクノに比べると、理解されにくいこれらのビートですが、ちょっと解ってくると、これほど面白いダンスビートは他には無いと思いますよ!

 

続・ジュークって一体何なのさ!?内に秘めたるポリリズム - What a Wonderful World

*1:一説によるとヒップホップを既定の倍の回転数でかけてしまった事が始まりだとか。

*2:ダブステップにおいては、ハットやスネアだけでなくキックも32分音符のリズムを採ることが、ままあります。

*3:通常であれば2拍4拍でスネアを打つ所を3拍目で打つ事でハーフタイムを演出するリズム

ポスト・ダブステップ?ポスト・チルウェイブ?アンビエントR&B?FKA Twigsから辿るインディR&Bの系譜

最近、各所で話題になっているFKA Twigs『LP1』ですが、自分も例にもれず買ってみました。なるほど、これは確かに!皆が注目するのもわかる独特のサウンドスケープ。抽象的でダウナーな、ともすれば理解され難いトラックに、キャッチーなメロディが乗って、不可思議なのに聴きやすい絶妙なバランス。

LP1

LP1

 

 

調べてみるとこのFKA Twigs、メディアではその扱いに困っているようで、ポスト・ダブステップだとか、ポスト・チルウェイブであるとか、いやこれはアンビエントR&Bだとか、それらを全部ひっくるめてインディR&Bなんて呼ばれ方で紹介されていたりするようです。一聴してわかるとおり、その奇抜なサウンドに美麗な歌声が乗る所から、「新世代のBjork」なんて言われ方もされてるみたい。いずれにせよメディアがカテゴライズに困っている時は、何か新しい潮流が生まれつつある証拠!ということで、今回はこのミステリアスな歌姫を中心に、にわかに活気づくインディR&B(暫定的にこう呼んでおきます)の世界を覗いてみます。

 

まず、FKA Twigsを世に送り出したのが、2006年にXL Recordings傘下に設立されたレーベルYoung Turks。所属アーティストを見てみるとSBTRKTやSampha、The xx等々、その錚々たる顔ぶれにまず驚かされます。と同時に、この諸先輩方あっての彼女、という所で妙に納得してしまう部分も。SBTRKTもThe xxも、独特のアンビエンス感のある個性的なサウンドを展開しながら、その中心に歌を置くというスタイルは、FKA Twigsに通ずる所があると思いませんか?

ポスト・ダブステップという視点から見れば、まずまっ先に浮かんでくるのがJames Blake。1stアルバムで聴かせてくれた、ブリストルマナーのダブステップに儚げな歌が乗るというスタイルが2011年当時、話題になりましたね。昨年リリースされた『Overglown』は2013年英マーキュリープライズを獲得。しかしながら、1stのようなダブステップ・アルバムを期待していた自分には少々物足りなく感じられ、暫くCDラックで埃を被っていました。今回、この記事を書くにあたって聴き直してみれば、なるほど、このサウンドの変化はインディR&Bの流れを意識したものだったのか!と、ようやく納得がいきました。

 ダブステップ・ミーツ・R&Bという点でいったら、この人Jamie Woon。James Blakeがダブステップに歌を乗せたのだとしたら、Jamie Woonは自身のサウンドにダブステップの質感を取り入れていった人と言えます。ダブステップの大御所Burialから多大なる影響を受け、アルバムでもリードトラックのプロデュースを任せるほど。直球なダブステップトラックこそないものの、そのサウンドはダブステップからの影響を色濃く感じさせます。

 ポスト・チルウェイブの代表格と言われているのがHow To Dress Wellですね。個人的にこの人はチルウェイブというよりは、ウィッチ・ハウスの人*1という印象でして、ウィッチ・ハウスというジャンル自体がアンダーグラウンドな指向を見せていたので、まさかここまで有名になろうとは思ってもいませんでした。それというのもやはり、浮遊感のあるトラックに、歌を前面に打ち出したサウンドが時代の流れにマッチしたからこそなのでしょう。

How To Dress Wellを世に送り出したのが、ウィッチ・ハウスの総本山TriAngleレーベルのオーナーであるBalam Acab氏。自身もウィッチ・ハウスを代表するアーティストとして名を馳せています。今回挙げた他のアーティストに比べると、歌こそ前面には出てこないものの、その神秘的なサウンドはFKA Twigsに通じる所があると思います。

そして話は、いよいよアンビエントR&Bにまで及ぶワケですが、申し訳ない。僕自身がほとんどこのジャンルを聴いてこなかった為に、あまり紹介するネタがありません。聞き及んでいる話によれば、昨年グラミーを受賞したFrank Oceanが代表的なアーティストだとか…。ここは各自で調べておくように!(笑

といったように、多方面からのクロスオーバーがあり百花繚乱なこのシーン。水面下ではまだまだ次なるアーティスト、次なる作品が待機しているようですので、しばらく注目していきたいと思います!

*1:ウィッチ・ハウス自体がポスト・チルウェイブ、ポスト・ダブステップという触れ込みで出てきました。

クラブイベントのデファクトスタンダードになるか?AQUANAUTSの風景

もう先月の事になりますが、久しぶりにドラムンベースのイベントAQUANAUTS@Shibuya KinobarでDJをやらせて頂きました。ディープでアーバンな選曲を中心としたラウンジ感を重視したイベントで、リラックスした雰囲気でお酒と音楽、交流を楽しめるナイスパーティです。そこで興味深かった事をいくつか。

DJは今やUSBが基本!

現場ではもはや常識?最近のCD-JにはUSBメモリから楽曲をロード出来る機能が付いていて、その場でBPM検出はモチロン、高性能な機種になると波形表示までしてくれる!当日、僕の持ち込んだ機材の調子が悪くてプレイ中にノイズが乗りまくり。主催のMegsisさん(@DJ_Megsis)に、USBメモリでのバックアップを用意しましょう!と諭されてしまいました。申し訳ないm(_ _)m アナログレコードをキャリーカートに積んで街中をゴロゴロと移動してた頃に比べると、PCでDJをするようになってから大分荷物が減って楽になりましたが、それでもPCDJはセッティングが煩雑だし、トラブルがつきものという印象だったので、その内もっとシンプルなタブレットを主体にしたスタイルに移行しようカナ?と考えていたところ、現場はもっと先を行ってました。今やUSBメモリとヘッドフォンだけ持ってDJをしに行く時代。なんてカジュアル!当日はBistroさん(@Bistrojazz)や、AYAさん(@Aya_1206)がこのスタイルでしたね。

楽曲検索アプリShazamが人気?

当日DJをされたga_ck_ieさん(@ga_ck_ie)と遊びに来ていたたくまさん(@Tacumille)が、フロアでスマホをスピーカーに向けて何かしている。きいてみると、Shazamという楽曲検索アプリで今かかっている曲を調べているのだそう。スマホのマイクで拾った音声を元に検索しているという事は、楽曲の波形を照合する事で探してくれるのかな?ドラムンベースの楽曲はDL販売かアナログでの流通がほとんどなので、そういうものでも検索に引っ掛かるの?とたずねたところ、精度はかなり良好で、Beatportのような有名どころで販売されているものであれば、ほとんど引っ掛かるそう。街中でも、ふと耳にした楽曲が気になってしまう僕みたいな人種にはこれは便利!(もっと言えば、最近のヒット曲には欠かせない街鳴りとWeb鳴りを結びつける革新的なアプリかもしれない!)

イベントはソーシャルメディアのオフ会

一番印象的だったのは、出演者であるDJ、遊びに来るお客さんの殆どがTwitterなどのソーシャルメディアの繋がりで参加していた事。端的に言えばこのイベント自体が、ソーシャルメディアにおけるコミュニティをリアルに持ち出したものと言えそう。DJ同士、お客さん同士で直接的な繋がりが無くても、誰かのネットワークを経由して必ず繋がっているので、自己紹介はTwitterアカウント、Facebookアカウントの交換になり、比較的スムースに交流を持つ事が出来るし、また同時に参加者がスマホで、遂次イベントの様子や感想をSNSに書き込むので、現場にいないフォロワーさん達ともイベントを共有できる。これでUstreamでの中継が入ったりすれば完璧! 00年代半ばのまだSNSが流行りはじめの頃は、クラブでのSNS利用はあくまで補完的なものだったような気がします。初めてその場で会って、次にいつ会えるかわからないケド、どこかのイベントでまた会えた時に忘れないようにフォローしあう、名刺交換みたいなノリだったと思うのだけど、ここではそれが完全に逆転しているのが面白い。ソーシャルメディアで築いた繋がりをリアルで深めたり、間接的な繋がりを直接的なものにしたりと、交流を軸に据えたイベントだからこそ会話の邪魔にならない控えめな音量。そして、ドラムンベースという中音域が薄くて、声が通りやすいジャンルが驚くほど上手く機能していると感じました。 実際、他のクラブイベントに行くとメインフロアよりもラウンジの方が混んでいるというのはざらで、みんな音楽という共通の話題の上で、交流を楽しむという傾向が強くなってきているように思います。AQUANAUTSみたいなイベントが現れたのは時代の流れに沿った必然(Megsisさんのマーケティング能力の賜物!)で、これからより交流に軸足を置いた、ソーシャルメディアのオフ会としてのクラブイベントが増えてくるのかもしれませんね。