ボーカロイドはオワコンなのか?『ボカロ衰退説』について考えてみた。
2013年の末に、当ブログで上の記事を書かせていただきました。こちらが好評だったので、引き続き2014年投稿楽曲の"分析してみた"も書いてみようと思っていたのですが、昨年の投稿作品の中で一万マイリスを越えたボカロ曲は62曲(2015/01/03時点、リメイク・リミックス・カバーは除外。)となっており、2013年の139曲から比べると半分以下になってしまいました。またこの62曲のうち、特定のPが占める割合が非常に高くなっており、傾向を分析する素材としては適していないように思えたので、今回は趣向を変えまして、2014年に話題になった「ボカロ衰退説」について考えてみたいと思います。
まず、単純に2013年末時点で139曲あった一万マイリス越えの楽曲が、2014年投稿作品では62曲と半減していることから考えても、ニコ動におけるボカロ楽曲の注目度が以前より下がっている事は、ほぼ間違いないと筆者は考えます。
この見方には幾つか反論があると思います。①ボカロだけではなくニコ動全体として再生数が減少しているのでは?というご意見。2014年4月から導入された再生前広告等を理由として、ニコ動自体の人気が下がっているのではないか?というご指摘ですね。Paradoxical Libraryさんの出版されている『ニコニコ動画統計データハンドブック』によると2014年のニコニコ動画の再生数は、実は増加傾向にあったようです。この本に掲載されている日別動画再生数グラフを見ると、2013年から2014年の再生数はざっくり二割ほど増加しており、ニコニコ動画自体の人気はまだまだ盤石であると言えそうです。
②マイリス数ではなく、再生数で比べないと意味がないのでは?というご意見。おっしゃる通りで、2013年末時点での一万マイリス越え楽曲と作年のそれを比べるのが一番シンプルで解りやすいのですが、残念ながら再生数は控えていなかったので、これは比べることが出来ませんでした*1。実際のところ、前述の『ニコニコ動画統計データハンドブック』によれば、投稿動画数に対するマイリス数は2013年に比べると二割程度落ち込んでおり、マイリスト登録してもらえる確率は徐々に下がっています。またVOCALOIDカテゴリの投稿動画数も一割ほど減っていますので、これらの要素が一万マイリス越え楽曲の減少に直接、影響している事は疑いようがありません*2。しかしながら、一万マイリス越えが半分以下になってしまった事の理由としては、これらだけではやや弱いと感じます。
"初音ミク"のキャラクター消費は終わった!
ここからは、確たるデータのない筆者の肌感覚によるものになりますが、2014年はTwitter、piapro、pixiv等のSNSやコミケ等の同人即売会で、ボカロ関連のコンテンツを見かける機会が大幅に減ったように感じました。TwitterでRTされてくるイラストはボカロに代わって『艦これ』や『ラブライブ』が増え、pixivも同様の傾向。piaproの新規投稿イラストは確実に減りましたし、コミケ会場では一、二年前はどこを見ても目に入ったボカロのコスプレを殆ど見かけなくなりました。二次創作主体の絵師さんやコスプレイヤーさんというのは非常に流行に敏感です。彼らの動向をみていると、やはり初音ミクをはじめとしたボーカロイドキャラクターのブームは終わったのだと感じさせられます。
しかし、これはそのまま『ボカロ衰退説』を肯定するものではありません。この傾向自体はあくまで"初音ミク"のキャラクター消費の終わりを示唆するものであって、DTMソフトとしてのボーカロイドの終焉とはイコールではないと筆者は考えます。前述したとおり、ボカロ楽曲の投稿数自体はそれほど減っていませんし、先ごろにYAMAHAさんからVOCALOID4のリリースがアナウンスされたばかりです。早速、投稿され話題になったcilliaさんの【VY1V4】Fairytale,【カバー】におけるVOCALOID4の表現力には驚くべきものがありました。
これからのボーカロイドカルチャーについて
柴那典さんの著書『初音ミクはなぜ世界を変えたのか?』には、こんな一節があります。「第9章 浮世絵化するJポップとボーカロイド」から、「ボーカロイド「高速化」の理由」より抜粋
ボーカロイドの歌声は、人間の声に近づける「調教」のテクニックはあれど、基本的にはフラットな声色になっている。音程のズレも少ないし、そもそも歌唱力という観点もない。声の情報量をスルーすることが前提になっているがゆえに、アレンジや音色に情報量を込めたものがヒットするようになったという見方もできる。
理由は断定できないが、少なくともニコニコ動画とボーカロイドのアーキテクチャ、テクノロジーの変化が、「音そのもの」の傾向にまで影響を与えているのは間違いない。
また、「終章 未来へのリファレンス」では、クリプトン伊藤社長がインタビューに応えて、こんな事をおっしゃっていました。
今のボーカロイドのムーブメントはそろそろ終焉を迎えていくかもしれないし、その可能性はあります。
理由は幾つかあるんだと思いますが、流行る曲調がみんなだいたい同じになってしまったからということもあるでしょう。
ボカロ衰退論者の中にもやはり「ボカロ曲の高速化・画一化」をその理由として挙げている方がいらっしゃいますが、筆者自身もその意見には同感です。柴那典氏はその原因として「アーキテクチャ、テクノロジーの変化が、「音そのもの」の傾向にまで影響を与えているのは間違いない。」と書かれていますが、これはつまり当時のハイエンドであるVOCALOID3の限界が、そのまま高速化・画一化の原因になった、とも読めるのではないでしょうか。
先ほどご紹介したcilliaさんの【VY1V4】Fairytale,【カバー】を聴いていると、VOCALOID4の表現力にはその"VOCALOID3の限界"を打ち破るポテンシャルが秘められているように思えます。声の情報量を増やす事が出来れば、これまでマイナーだったスロー~ミディアムテンポの楽曲にもスポットが当たるようになるかもしれません。そうなれば「ボカロ曲の高速化・画一化」という壁を打ち破ることだって出来るカモ!?もちろん、それには制作における「調教」の比重を上げなくてはならないでしょうが…。
また、話を戻して「初音ミクのキャラクター消費の終わり」については、思い返してみれば『千本桜』『カゲロウプロジェクト』の頃から顕著になってきたものだったと思います。どちらも初音ミクらしきキャラクターは出てきますが、初音ミクである以上に『千本桜』の、『カゲロウプロジェクト』のキャラクターであり、Pの構築した世界の住人でした。ボーカロイドはキャラクター消費の終わりとともに、固有のキャラクター性を失い、今また歌声合成ソフトウェアというフラットな"ツール"に戻りつつあるのかもしれません。それは裏を返せば、無色なボーカロイドを染め上げるような強い作家性が、これからのボカロPには求められるという事だと思います。
ここまでお付き合い頂き感謝m(_ _)m
追記:こちらの記事を投稿したあとで、下の記事を見つけたのでご参考までに。
追記2:こちらの記事に寄せられたTwitter上でのご意見、ご感想をtogetterにまとめてみました。