YouTubeがラウドネス規格を導入!J-ポップやボカロ曲にも影響が?音圧戦争その終わりのはじまり

筆者はボカロPとしてニコニコ動画をはじめ、YouTubeSoundCloudに自身の楽曲をアップしていますが、最近になってYouTubeが他二つのサイトに比べて音が小さいのではないか?と感じていました。それがどうも思い過ごしではなかったようです。昨日になってこんなニュースを見つけました。

 

 

これがどういう事かというと、今まで動画ごとにバラバラだった音量を自動的に一定の基準に揃えますよ、という事です。*1動画サイトや音楽サイトユーザーの皆さんは、再生するコンテンツ毎に手元のボリュームを上げたり下げたりした経験があると思いますが、今後YouTubeに関してはその煩わしさが無くなります。TVでは2012年10月から導入されていたラウドネス規格ですが、ついにネット上でもその導入が始まったのです!*2

 

ユーザーにとっては全ての動画を一定のボリュームで楽しめてちょっと便利、というくらいの事かもしれませんが、音楽制作者にとってこれは革命的な事です。何せここ数十年もの間、音楽にとって音の大きさ(「音圧」といいます)は生命線。同一のボリュームでいかに音を大きく(音圧を高く)聴かせるかが、ミキシング、マスタリングエンジニアにとっては至上命題だったのですから。

 

何故、音圧が高い方が良いかと言えば、その方が派手に聴こえるからなんですね。デジタルオーディオの最大入力値は0dB*3と定められており、それを超えると歪んでしまいます。音量には上限があるけれど、他の楽曲よりも大きな音で聴かせて目立たせたい!そのために追及されてきたのが「音圧」なのです。下の図を見て頂くと解りやすいと思うのですが、「音圧をあげる」とはすなわち「決められた大きさの箱の中にいかにして音を詰め込むか」という事です。 

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この図は同じ曲の同じ部分の波形です。上が音圧をあげていないもの、下が音圧をあげたもの。ハコ自体の大きさ(最大音量)は一緒ですが、下の波形は頂上付近が削れて、小さい山が大きくなっているのがお解りいただけると思います。下の方が同じボリュームの時に大きく派手に聴こえるワケです。より高い音圧を求めて音楽業界はここ数十年にわたって競争を繰り広げ、その様子を揶揄して「音圧戦争(Loudness War)」なんて言われ方もしました。

 

百聞は一聴にしかず、まずはラウドネス規格が未導入のニコニコ動画で下の二曲を順番に聴いてみて下さい。

[re:jazz] feat. Jhelisa - Inner City Life
八王子P - Carry Me Off feat. 初音ミク

この二曲は最大音量(ハコの大きさ)こそ一緒ですが、聴感上は音圧のより高い「八王子P - Carry Me Off feat. 初音ミク」の方が大きく聴こえると思います。一曲目「[re:jazz] feat. Jhelisa - Inner City Life」を聴くのにボリュームを適度な大きさに合わせた方は、二曲目を再生したときにその音量の差にビックリなさったのではないでしょうか。では、次にラウドネス規格が導入されたYouTubeで先ほどの二曲を聴き比べてみて下さい。

いかがでしょうか?先ほどより音量の差を感じなかったはずです。これがラウドネス規格によって聴感上の音量を一定に補正された状態ですが、音圧の高い「八王子P - Carry Me Off feat. 初音ミク」の音量が大分抑えられている事にお気づきでしょう。先の図を例にとって説明すると、下のような事がおこっていると考えられます。現状のYouTubeにおいては音楽業界が粉骨砕身してきた「音圧アップ」は、ほとんど無駄になってしまうのですね。それどころか、音圧アップにより音の情報が欠落している楽曲は音が悪くなりますし、楽曲中の音量差が小さくなっているので平坦に聴こえてしまいます。音圧の追及は、音の良さやダイナミクス等、音楽的な要素とのトレードオフの上に成り立っているのです。*4

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動画共有サイトの最大手であるYouTubeラウドネス規格を導入したことで、今後この動きは国内外、大小問わず多くの動画共有サイトで適用されていくと思われます。また、つい先月アップルがストリーミングサービスへの参入を発表したことが大きな話題となりましたが、この新サービスにラウドネス規格が導入されるのではないか?との噂もあります。新旧様々な(音圧がバラバラな)音楽を手軽にシームレスに聴けるのがストリーミングサービスの肝であり、同社のiTunes Radioや同じストリーミングサービスのSpotifyには既に実装されていますので、この噂には十分な信憑性があると考えられます。

つまり、ここへ来て時代は「音圧の追求」を否定する方向へ、大きく舵を切ったと言えるのではないでしょうか?今、音圧戦争の真っ只中にあるJ-ポップやボカロ曲にも早晩この影響が出てくることになると思います。そして、ラウドネス規格の普及により「音圧の追求」から解放されたポピュラーミュージックは、よりダイナミクスを活かした新しい音楽、新しいトレンドを開拓していくのではないかと、筆者は期待しています。ここまでお付き合い頂き感謝m(_ _)m

 

3/23追記:Twitter上でsatさん(@sat1080)が公開してらした図が解りやすかったので、転載させていただきます。

*1:正確に言うと-13LUFSという基準値を超える音声ファイルのボリュームを下げるという事のようなので、小さい音声を大きくしたりはしないようです。

*2:実はYouTubeでは昨年12月に導入されていたようです。

*3:デジタルで処理できる限界値=0dB、0dBFS

*4:ここではニコニコ動画YouTubeの比較をしていただくために両方にアップされていた八王子Pの作品を取り上げましたが、氏の楽曲の音圧が不当に高過ぎると言っているわけではありません。ポップス市場の要請として音圧の高さは現状、必須のものなのです。