#AQUANAUTS vol.8とリキッドファンク・アンセムその2
来たる7/11(土)早稲田は茶箱にて開催される、リキッドファンク&ラウンジ・ドラムンベースイベント『AQUANAUTS vol.8』にDJとして出演させて頂きます!
毎度AQUANAUTSの告知と共に「リキッドファンクって何なのさ?」という方に向けてお届けしているリキッドファンク紹介コラム。今回は「あの大御所のブレイクスルーのきっかけとなった名曲」をテーマにご紹介してみようと思います。どれも2010年以前のリリースですが、まだまだフロアでプレイされる鉄板曲ばかりです!
Lenzman - Ever So Slightly
ディープ&リキッド系アーティストの登竜門的役割を果たしてきたレーベル「Integral Records」から2008年のリリース。ソウル&ファンクの王様James Brownの「Sunny」を大胆にサンプリングしたこの曲は、Lenzmanの名を世に知らしめた一曲だと思います。当時ディープ系に傾倒していた僕自身も、この曲との出会いをきっかけにリキッドファンクを掘るようになりました。
2009年リリース、Alix Perezの1stアルバム『1984』に納められた一曲。前年リリースの『Alibi』が注目を集めていたSpectrasoulとの共作で、両アーティストの個性が遺憾なく発揮された名曲中の名曲です!Peven Everettのアンニュイなボーカルも素晴らしく、新時代の到来を感じさせました。
Sabre & Survival - The Omega King
SabreとSurvivalによる2009年リリースのコラボEPからの一曲。前述の2曲に比べるとそれほど知名度こそないかもしれませんが、個人的には大好きな曲です。特にSabreの個性が色濃く反映された静謐な世界観は、話題沸騰中のStray & HalogenixとのユニットIvy Labにも引き継がれているのではないでしょうか。
もっとリキッドファンクについて知りたいという方は、よろしければ前回の記事にもお目通しいただいて、そして是非、AQUANAUTSにも遊びに来て下さい。お待ちしております!m(_ _)m
#AQUANAUTS vol.7とリキッドファンク・アンセム!
来たる5/16(土)早稲田は茶箱にて開催される、リキッドファンク&ラウンジ・ドラムンベースイベント『AQUANAUTS vol.7』にDJとして出演させて頂きます!
ところで「リキッドファンクって何なのさ?」という方に向けて、今回はその中でも特に人気の曲、いわゆる「アンセム」をご紹介してみようと思います。AQUANAUTSでも毎回どれか一曲はかかる定番曲ですので、イベントの予習として聴いておくと、フロアでより楽しめること請け合いですよ!
ドラムンベース界の歌姫Jenna Gと、Roni Size / Reprazentの一員としても活躍したDJ Dieによる特大アンセム。Jenna Gの歌声は最早ドラムンベースにおいてはアイコンと化していて、他にもご紹介したい曲がいっぱいありますが、何はともあれ、これだけは押さえておきたい一曲です!
Jenna Gがドラムンベースにおけるソウル・ディーヴァならば、Riya嬢はさしずめフォーク・ディーヴァと言えるのではないでしょうか。凛とした涼しげな歌声が紡ぐメロディは、現代のフォークロアと呼ぶに相応しい佇まい。リキッドファンクの大御所Lenzmanとの、これまた押さえておきたいアンセムです。
ニューロファンク系プロデューサーであるCalyx&TeeBeeによる一曲。これをリキッドファンクと呼ぶかどうかはDJにより相違がありそうですが、AQUANAUTSではしばしば耳にする人気曲です。個人的に、ドラムンベースシーンにおける「歌モノ」のスタイルを更新した問題作であるとも思います。
今回、僕は16:00からのオープニングDJを務めさせていただきますが、折角お聴きいただいたので、自分のプレイの中でどれか一曲かけちゃいましょう。その辺りも楽しみに是非、茶箱に遊びにいらして下さい!もっとリキッドファンクについて知りたいという方は、よろしければ前回の記事にもお目通し下さい。
AQUANAUTS vol.6と最近お気に入りのリキッドファンクのこと。
来たる3/21(土)早稲田は茶箱にて開催される、AQUANAUTS vol.6にDJとして出演させて頂きます!
前回はAQUANAUTS vol.5の告知と一緒にリキッドファンクの起源について書かせていただきましたので、今回は最近のリキッドファンクからオススメの曲をご紹介させて頂こうと思います。
NuageとGerwin。それぞれに個別の名義で活動をされていて、Nuageはハウス系のプロデューサーのようなのですが、この二人が時折一緒にリリースするドラムンベースがものっ凄くツボです。二人の最新作であるこの曲は、スネアが4拍目のみのハーフタイムフィーリングがある曲なので、スタートから序盤によく選曲しています。こういうチルな雰囲気の曲からジワジワ温めていくのが、最近の僕の定番です。
Sabre、Stray、Halogenixのベテラン3人によるユニット「Ivy Lab」が特にお気に入りで、この曲に限らず彼らの曲をよくかけています。どちらかと言うと静謐な世界観の曲が多いので、ピークよりも序盤から中盤にかけて使っています。個別名義での楽曲もカッコイイものが多いのでオススメですよ!
前回の記事でも「Wonderful Feeling」をご紹介させていただいたMr Joseph。個人的にリキッドファンクと言ったらこの人!というくらい間違いのない仕事をされます。ソウルフルでアッパーな雰囲気があるので、中盤からピークに。ほんのりオールドスクールなフィーリングがあるところも、お気に入りポイントです。
僕のDJではこんなカンジの曲をよくかけてますが、AQUANAUTSクルーの中では最年長ということもあって、やや大人し目かもしれません。僕は今回トリなので、チルアウトには丁度良いかもしれませんね(笑)もっとアッパーなパーティーチューンもいっぱいかかりますんで、是非フロアに踊りに来て下さい!お待ちしておりますm(_ _)mもっとリキッドファンクについて知りたいという方は、よろしければ前回の記事にもお目通し下さい。
YouTubeがラウドネス規格を導入!J-ポップやボカロ曲にも影響が?音圧戦争その終わりのはじまり
筆者はボカロPとしてニコニコ動画をはじめ、YouTubeやSoundCloudに自身の楽曲をアップしていますが、最近になってYouTubeが他二つのサイトに比べて音が小さいのではないか?と感じていました。それがどうも思い過ごしではなかったようです。昨日になってこんなニュースを見つけました。
これがどういう事かというと、今まで動画ごとにバラバラだった音量を自動的に一定の基準に揃えますよ、という事です。*1動画サイトや音楽サイトユーザーの皆さんは、再生するコンテンツ毎に手元のボリュームを上げたり下げたりした経験があると思いますが、今後YouTubeに関してはその煩わしさが無くなります。TVでは2012年10月から導入されていたラウドネス規格ですが、ついにネット上でもその導入が始まったのです!*2
ユーザーにとっては全ての動画を一定のボリュームで楽しめてちょっと便利、というくらいの事かもしれませんが、音楽制作者にとってこれは革命的な事です。何せここ数十年もの間、音楽にとって音の大きさ(「音圧」といいます)は生命線。同一のボリュームでいかに音を大きく(音圧を高く)聴かせるかが、ミキシング、マスタリングエンジニアにとっては至上命題だったのですから。
何故、音圧が高い方が良いかと言えば、その方が派手に聴こえるからなんですね。デジタルオーディオの最大入力値は0dB*3と定められており、それを超えると歪んでしまいます。音量には上限があるけれど、他の楽曲よりも大きな音で聴かせて目立たせたい!そのために追及されてきたのが「音圧」なのです。下の図を見て頂くと解りやすいと思うのですが、「音圧をあげる」とはすなわち「決められた大きさの箱の中にいかにして音を詰め込むか」という事です。
この図は同じ曲の同じ部分の波形です。上が音圧をあげていないもの、下が音圧をあげたもの。ハコ自体の大きさ(最大音量)は一緒ですが、下の波形は頂上付近が削れて、小さい山が大きくなっているのがお解りいただけると思います。下の方が同じボリュームの時に大きく派手に聴こえるワケです。より高い音圧を求めて音楽業界はここ数十年にわたって競争を繰り広げ、その様子を揶揄して「音圧戦争(Loudness War)」なんて言われ方もしました。
百聞は一聴にしかず、まずはラウドネス規格が未導入のニコニコ動画で下の二曲を順番に聴いてみて下さい。
この二曲は最大音量(ハコの大きさ)こそ一緒ですが、聴感上は音圧のより高い「八王子P - Carry Me Off feat. 初音ミク」の方が大きく聴こえると思います。一曲目「[re:jazz] - Inner City Life」を聴くのにボリュームを適度な大きさに合わせた方は、二曲目を再生したときにその音量の差にビックリなさったのではないでしょうか。では、次にラウドネス規格が導入されたYouTubeで先ほどの二曲を聴き比べてみて下さい。
いかがでしょうか?先ほどより音量の差を感じなかったはずです。これがラウドネス規格によって聴感上の音量を一定に補正された状態ですが、音圧の高い「八王子P - Carry Me Off」の音量が大分抑えられている事にお気づきでしょう。先の図を例にとって説明すると、下のような事がおこっていると考えられます。現状のYouTubeにおいては音楽業界が粉骨砕身してきた「音圧アップ」は、ほとんど無駄になってしまうのですね。それどころか、音圧アップにより音の情報が欠落している楽曲は音が悪くなりますし、楽曲中の音量差が小さくなっているので平坦に聴こえてしまいます。音圧の追及は、音の良さやダイナミクス等、音楽的な要素とのトレードオフの上に成り立っているのです。*4
動画共有サイトの最大手であるYouTubeがラウドネス規格を導入したことで、今後この動きは国内外、大小問わず多くの動画共有サイトで適用されていくと思われます。また、つい先月アップルがストリーミングサービスへの参入を発表したことが大きな話題となりましたが、この新サービスにラウドネス規格が導入されるのではないか?との噂もあります。新旧様々な(音圧がバラバラな)音楽を手軽にシームレスに聴けるのがストリーミングサービスの肝であり、同社のiTunes Radioや同じストリーミングサービスのSpotifyには既に実装されていますので、この噂には十分な信憑性があると考えられます。
つまり、ここへ来て時代は「音圧の追求」を否定する方向へ、大きく舵を切ったと言えるのではないでしょうか?今、音圧戦争の真っ只中にあるJ-ポップやボカロ曲にも早晩この影響が出てくることになると思います。そして、ラウドネス規格の普及により「音圧の追求」から解放されたポピュラーミュージックは、よりダイナミクスを活かした新しい音楽、新しいトレンドを開拓していくのではないかと、筆者は期待しています。ここまでお付き合い頂き感謝m(_ _)m
3/23追記:Twitter上でsatさん(@sat1080)が公開してらした図が解りやすかったので、転載させていただきます。
youtubeで行われてる音量をそろえる操作が行われた結果のイメージ図 pic.twitter.com/YbHMs5hwFO
— sat1080@ボカロP&Mix師 (@sat1080) 2015, 3月 22
『初音ミクの証言』の衝撃!とリミックスのこと。
もう先週のことになりますが、ニコニコ動画にて面白い作品が投稿されました。ヒップホップのトラックに7MCsによるマイクリレー。というだけならば、それほど珍しいわけではありませんが、このMC達、実は全員がボーカロイドなのです!*1
楽曲のコンセプトとしては、日本語ラップの金字塔と言われるLamp Eyeの『証言』を引用して、現代の音楽的革新のアイコンである「初音ミク」が次代の証言を引き継ぐ、というもの。インターネット世代の新しい『証言』と言ったら盛り過ぎカシラ?
日本語ラップ史に関して筆者はあまり詳しくないので、そこには深く言及しませんが、個人的にこの楽曲の面白さは、「超個性的な作家陣が一堂に会して、こんな象徴的な作品を作っちゃった」という点にあると思います。参加している各人それぞれが、普段からあっと驚くような面白い作品をリリースしている方ばかり。そんな人達が集まって作った作品がつまらないハズがない!
特にボカロP一人一人が担当する七人のMCは、そのリリックもフロウも非常に個性的かつ刺激的。筆者も「ボーカロイドによるラップで、ここまで独自性が発揮できるものなのか!」と脱帽させられました。マイクリレーという形をとることで、各人の特色がより一層際立っていると思います。
そんな『初音ミクの証言』ですが、早くもディスやそれに影響を受けた楽曲も出てきたりして、各所で話題沸騰中の模様!
この流れを支援したいという気持ちと、僕もお祭りに参加したい!という動機から、筆者も早速リミックスをこしらえてみました。是非、ご一聴下さい!またご協力いただいたディレクターのしまさん、並びに原曲制作者の方々に、この場をお借りして改めて御礼申し上げますm(_ _)m
*1:正確にはCeVIOの「さとうささら」もいますが
Jazz The New Chapter:ロバート・グラスパーとクラブジャズはどう違うのか?今こそ読み返すべき沖野修也『クラブ・ジャズ入門』
- アーティスト: Robert Glasper
- 出版社/メーカー: Blue Note Records
- 発売日: 2012/02/28
- メディア: CD
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ロバート・グラスパーの『Black Radio』がリリースされたのが2012年の事。当時「新世代のジャズ」「ジャズ・ミーツ・ヒップホップ」といった触れ込みでメディアに大きく取り上げられ、話題になりましたね。このアルバムはその年のグラミー賞最優秀R&Bアルバム部門を獲得しています。しかし、僕個人の印象は「これの一体どこが新しいのだろう?」というものでした。ヒップホップ+ジャズというコンセプトは「クラブジャズ」と呼ばれるカテゴリーでは90年代初頭から、多くのアーティストが繰り返し試みているものだったからです。
上からGuru『Jazzmatazz』(93年米)、Ronny Jordan『Off the Record』(01年英)、Jazz Liberatorz『Clin D'oeil』(08年仏)からの一曲。これらのような作品をアシッドジャズ・ムーブメントの頃から追いかけてきた僕にとっては、ロバート・グラスパーの『Black Radio』を一聴して“新しい”とは到底思えなかったのです。
それからしばらくロバート・グラスパーの事はすっかり忘れていたのですが、昨年『Jazz The New Chapter』が出版されてからというもの、彼をアイコンとした「現代ジャズ」がにわかに騒がしくなっています。この本自体も相当の部数が売れているようで、筆者の周りにも「現代ジャズ」のフォロワーが増えてきました。
Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)
- 作者: 柳樂光隆
- 出版社/メーカー: シンコーミュージック
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「ロバート・グラスパーと、これまでのクラブジャズはどう違うのか?」という点について、いちクラブジャズフォロワーである筆者は、現代ジャズフォロワーの友人たちと喧々諤々の議論を、日々繰り広げているワケですが、誰もそれに対する明確な答えを持ち合わせていませんでした。今回は“そこ”にスポットを当てて考えてみたいと思います。
クラブジャズって何なのさ?
そもそもジャズと分けて語られる「クラブジャズ」とは一体何なのでしょうか?世界的なクラブジャズDJであり、その第一人者である沖野修也さんの著書『クラブ・ジャズ入門』を参考に整理してみましょう。
クラブジャズの始まりは70年代に遡ることができます。イギリスでクリス・ヒルやボブ・ジョーンズといった伝説的なDJが、ソウルやファンクと並列する形でジャズ・ファンクやフュージョンをディスコでプレイし始めた事が、その起源だといわれているそうです。
しかしながら、そのシーンが世間で認知されるようになったのは80年代に入ってから。大きなきっかけとなったのは、ポール・マーフィーの登場であったと言えるでしょう。彼もジャズ・ファンクやフュージョンをプレイしていましたが、ハード・バップやアフロ・キューバン、ファンキー・ジャズをプレイに導入することで、カムデンのクラブ「エレクトリック・ボール・ルーム」の黒人ジャズダンサーたちを狂喜させたのです。そして、彼がレジデントDJを務めていたクラブ「ワグ」にて、ジャズの影響を受けたポップ系アーティストたち*1とのセッション=「ジャズ・ルーム」なるイベントでの活動によって、彼はダンス・ジャズ・ムーブメントを決定的なものにしたといわれています。
そして、黒人ジャズダンサーたちの聖域である「エレクトリック・ボール・ルーム」で、ポール・マーフィーの後任DJとして抜擢されたのがジャイルス・ピーターソンでした。この頃に、ジャイルスをはじめとしたジャズDJ達のあいだで盛り上がりをみせたのが「レアグルーブ・ムーブメント」です。中古屋で二束三文で売られていたソウル、ファンク、ジャズファンク、フュージョンに新しい価値を見出し、ダンスミュージックとして再生する動きを指してこう呼ばれます。DJ達は当時B級扱いされていたアーティスト達の楽曲に再びスポットを当て、誰もが「まさか」と思っていたような音楽の中から「使える」曲を発見し、世の中の先入観や偏見を解体していきました。
1986年にジャイルスが朋友パトリック・フォージとカムデンの「ディングウォールズ」で始めたパーティが「トーキンラウド・セイイン・サムシング」です。このパーティこそが、ジャズで踊るカルチャー、そして後にクラブジャズと呼ばれる音楽の震源地であったと言えるでしょう。前半はダンサー向けの古いジャズセット、それに続くのはジャズの大御所からイギリスの若いジャズミュージシャンまでもが出演したライブセット、後半はジャズの影響を受けたあらゆる音楽、ソウル、ファンク、ハウス、ヒップホップなどがプレイされるミックスセットだったのです。
この頃にジャイルスがモッズ・ムーブメント第二世代の主要人物であるエディ・ピラーと立ち上げたレーベルが「アシッドジャズ」であり、このレーベルは主にジャズファンクのリバイバル作品をリリースしました。代表的なアーティストとしてジェームス・テイラー・カルテットやブラン・ニュー・ヘヴィーズ等。ジャミロクワイもここからデビューシングルをリリースしています。
そして1990年、ジャイルスが「アシッドジャズ」から独立し立ち上げたのが、先のパーティ名を冠するレーベル「トーキンラウド」です。このレーベルはジャズファンクに飽き足らず、ヒップホップやハウス、ドラムンベース、2ステップまでをフォローし、それを世界中に「ジャズの影響を受けたダンスミュージック」として発信していきました。代表的なアーティストにインコグニート、ガリアーノ、4ヒーロー、ロニ・サイズ、MJコール等がいます。
この2つのレーベル、アシッドジャズと初期のトーキンラウド、そしてジャイルスとパトリックのパーティ「トーキンラウド・セイイン・サムシング」を中心としたムーブメントが「アシッドジャズ・ムーブメント」と呼ばれるものです。その影響はUKのみならず世界中に飛び火し、後に沖野氏が名付けた「クラブジャズ」というムーブメントに成長していくわけです。
クラブジャズとモダンジャズの間に横たわる大きな溝
ここまでお読みいただいて、クラブジャズには大まかに四種類ある、という事がお解りいただけるでしょうか?
①DJの「踊れる」という基準で再評価されたジャズ
②レアグルーブにより発掘されたソウル、ファンク、ジャズファンク、フュージョン等
③ジャズファンク・リバイバルを始めとした、各種ジャズのリバイバル
④ヒップホップ、ハウス、テクノ、ドラムンベースなどのクラブミュージックとジャズのクロスオーバー
これらクラブジャズのほぼ全てが、特にモダンジャズのファンから評価されていません。それは何故なのでしょう?まず「ジャズは静かに集中して聴くもの、そして批評するもの」という前提のジャズファンからしてみれば①「踊れる」という評価基準は認められません。また②レアグルーブにはジャズファンがB級扱いしてきたジャズファンクやフュージョン、ジャズですらないソウル、ファンクまでが含まれます。③リバイバルという動き自体が、先鋭性を掲げるジャズの精神にそぐわないものです。④プレイヤー同士のコミュニケーションを重視し、それによる不可逆なプレイこそが醍醐味であるジャズにおいては、サンプリングや打ち込みのビートなんてもってのほか!
つまり、どうやらロバート・グラスパーの『Black Radio』は、①ジャズとしてのリスニング、批評に値する(「踊る」ことに特化していない)②ジャズプレイヤーとしての評価が高い(B級ではない)③先鋭的である④全てプレイヤーにより演奏される。という、これまでのクラブジャズにあった(ジャズとしての)マイナス要素を全てクリアしている、という事のようなのです。
新たなる地平に到達したジャズ、そしてクラブジャズとの邂逅
実は沖野修也さんの『クラブ・ジャズ入門』の後半に、ロバート・グラスパーに言及した明確な答えが載っていました。*2以下に引用します。
ヒップホップとジャズの真の融合を夢見てきたクラブ・ジャズ愛好家は少なくないことでしょう。果たして、それは見果てぬ夢なのでしょうか?ジャズとヒップホップが真に融合すれば、現代的なエッジ感と豊かな音楽性を同時に手に入れることができるはずです。マイルスやブランフォードが試みたヒップホップ・ビートの導入をさらに進化させ、トラック・メイカーに頼らない、ジャズ・ミュージシャンによる生演奏のヒップホップは、ジャズ・ミュージシャンこそが「今」やるべきジャズなのではないでしょうか。
実は、僕の疑問に明確な答えを打ち出してくれているミュージシャンが既に作品をリリースしています。彼の名はロバート・グラスパー。モス・デフやタリブ・クウェリのサポート歴もある、まさにヒップホップ世代のジャズ・ピアニストで、アルバム『In My Element』では、2006年に他界したJ・ディラへのトリビュート曲を収録し、生演奏のヒップホップを披露しているのです。
僕たちが見極めなければならないのは、ジャズ・ミュージシャンによる生演奏のヒップホップが、ジャズが先鋭的であったころの感覚を取り戻しているかどうかということです。
ヒップホップをジャズに“導入”するのではなく、ジャズもヒップホップも自然体で着こなすロバート・グラスパーというタレントを得て、ジャズはようやくマイルスやブランフォード以降の地平に辿り着いたようです。しかし、沖野氏が指摘するように現代ジャズが本当にその先鋭性を取り戻すことが出来たのかは、これからのリスナーの判断に委ねられています。
ヒップホップを取り入れたマイルス・デイヴィスの最後のアルバム『Doo-Bop』
ロバート・グラスパーとこれまでのクラブジャズの違い、ご理解いただけたかと思います。では最後に、彼をはじめとする「現代ジャズ」はクラブジャズではないのでしょうか?それもまた、これからのDJたちに委ねられているのです。現代ジャズの中に「踊れる」要素を見出し、それをフロアでプレイし、オーディエンスに受け入れられれば、それは紛れもなくクラブジャズと言えるでしょう。これからのクラブジャズ、及び現代ジャズの動き、楽しみですね!
ここまでお付き合い頂き感謝m(_ _)m
リキッドファンクって何なのさ?AQUANAUTS vol.5
来たる1/17(土)早稲田は茶箱にて開催される、AQUANAUTS vol.5にDJとして出演させて頂きます!
「Liquid Funk & Lounge Drum&Bass」を掲げる本イベントですが、皆さんはこの「リキッドファンク」って、どんな音楽かご存知ですか?ググってみれば、ドラムンベースのサブジャンルという事は分かるけれど、具体的にはどんなサウンドなのでしょう?
「リキッドファンク」という名称は、2000年にCreative Sourceというレーベルからリリースされたコンピ、その名も『LIQUID*FUNK』が始まりだと言われています。下の動画はこのコンピの一曲目に収録されているcarlitoのheavenという曲。本レーベルのファーストリリースとして、95年にアナログ盤で世に出ました。
このジャンルの代表的なレーベルとしては先述のCreative Sourceに加え、古くはGoodlookingやVibe'z、現在のシーンを牽引するレーベルとしてHospital、Liquid V、Fokuz等が挙げられると思います。とはいえ、carlito - heavenがフュージョンやクロスオーバーからの影響を色濃く反映した、落ち着きのあるトラックなのに対し、昨今のリキッドファンクはよりアッパーでパーティ感の強いトラックが主流となっています。百聞は一聴にしかず、筆者の思う「これぞリキッドファンク!」な一曲を貼っておきますので聴き比べてみて下さい。
同じリキッドファンクとはいえ、上記の2曲からは大分、違った印象を受けませんか?であれば「リキッドファンク」の定義とは一体何なのでしょう?実はドラムンベースであること以外に、このジャンルをリキッドファンクたらしめている要素は、ほぼ「無い」と言ってしまっていいでしょう。強いて挙げるのであれば、“インテリジェントかつリラクシンな雰囲気”という事になりそうですが、リリースされた時期やレーベルによって、そのサウンドには随分と幅があります*1。
90年代にUKから始まり、今では世界中でプレイされるようになったリキッドファンクは、未だフロアで磨かれ模索される、進化の過程にあるスタイルと言えます。AQUANAUTSというイベントは、各DJそれぞれが見つけてきた思い思いの「リキッドファンク」を発表する場でもありますので、皆さんも是非「今ここ」における現在進行形のサウンドを体感しにきて下さい!お待ちしておりますm(_ _)m
余談ではありますが、筆者がボカロPとして発表した『Between the Sheets』はリキッドファンクから多大なる影響を受けております。よろしければ併せて聴いてみて下さいね!